
過去の講演要旨
みなさんが世界に羽ばたくために
2015年9月1日朝塾 岡本 行夫氏講演
きょうは日本がどういう状況に置かれているか、個人々と国際社会をどうやって「切り結んでいくか」という話をさせていただきたい。
いま世界はものすごい勢いで構造変化が起きている。その最たるものが「人口」。人類の歴史で世界の人口が10億人になるのに約7000年かかったが、そこからの人口の伸びはものすごい。次に10億人増となったのは1930年で130年かかったが、その後は30年、15年、12年と10億人に達する期間が急速に短くなっている。
人口の伸びは、病気、疾病、貧困など負の側面でみられがちだが、現代はプラスの面が評価されている。経済の潜在成長力は、人口の伸びと生産性の伸びを合わせたものだが、その中で生産性の伸びは各国で平準化しつつある。
「グローバル・ラーニング」はそれを推し進めている一例。初めてOCW(オープン・クラス・ウィーク)制度を導入したのが米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)。学内で行われている全ての授業(2000講座ぐらいある)のビデオをネット公開しているが、そのほか主要大学も相次ぎ授業のネット公開を始めた。世界トップレベルの学者たちの授業を、世界の若者たちが無料で視聴できる。知識の平準化、生産性の平準化が進んでいる。残念だが日本ではOCWを利用している学生はほとんどいない。こうした知識、生産性の平準化は、経済成長力の主要因の一つ「生産性」はもはやみな同じになったということ。残る一つ、人口の伸びが国力、経済力を規定する最大の要因になっている。
2050年の人口予測は、現在11億人のインドが16億人。中国は14、5億人。米国は4億2000万人で、日本は9300万人。日本対米国の人口比率はかつての1:2から1:4・5に開く。一人元気なのが米国。この国と付き合わない手はない。一番大事な国だと思う。人口のすさまじい伸びとIT爆発の相乗作用で、とんでもないスピードで変化し始めている。日本が一番遅れているのがこの「スピード感」。
米国のシリコンバレーで言われたのが「日本人は時間がかかりすぎる」ということ。向こうは1日単位、数時間単位で動いている。日本は月単位。すさまじいスピード感の落差を感じた。シリコンバレーに日本人の姿はほとんどない。企業の駐在員はいるが、自分の力で飛び込んで、切り結んでやろうという日本人がいかに少ないか。圧倒的に多いのが、インド、中国、韓国。それにヨーロッパ、南米からも集まっている。MITの留学生も同様。個人の力で留学している学部生の日本人はわずか3人。
日本は住み心地がよすぎる。とってもいい国。安全できれい、食べ物がいい、こんな住み心地よい同質社会は世界中にない。小さなユートピアともいえるが、世界はすさまじい勢いで変わっている。我々はどんどん取り残されている。『フォーブス』の「アジアの有力企業50社ランキング」では、2006年には日本企業は20社近く入っていたが14年は1社、13年はゼロ。我々が自己満足、自己陶酔にひたっているうちに、日本のパイが相対的に小さくなってきている。
安保法制に賛成の立場だが、それはいまの状況がいいのかということ。大変、居心地のいい社会で、責任はほかの国に任せて日本人を守ることすらほかの国にやらせている。我々はほとんど何もしない、これがいいことなのか。国際社会で日本の孤立を加速させるのか。国際社会に日本を開かせるべき。
国際人になるためには「人にやさしくする、親切にする」、それが一番大事な資格だと思う。日本人はコミュニティの外、知らない人たちの間では開放的ではない。自分の狭い範囲にバリアを作ってその外へは出て行かない。言葉遣いなど形式的なことにはこだわるが、中身の本質考えないのが我々の悪いクセ。多様性を大切にしないと日本は大きくなれない。多様性というのはいろんなものを包摂していくということ。異なった意見の相克の中から新しいものをつくっていくことを学ばなければならない。世界の発展はそういうところから生まれている。
国際人の心得をもう一つ。構想力を持つ、課題設定能力をもつことが非常に大事。我々はものを「どう作るか」は得意だが、「何を作るか」というコンセプト作りが不得手。これは多様性の話とも共通するが、いろいろな意見を闘わせる中からいろいろなものが出てくる。異端の意見にも耳を傾けるべき。
最後に。「鶏口となるも 牛後となるなかれ」という中国の諺があるが、わたしは「牛後につくも 鶏口となるなかれ」と言いたい。大きな群れの最後にいることの方が、お山の大将で小さな群れのトップになることより楽。大きなものの群れに身を置いていれば、少しでも前に進もうという気になる。自分の周りには優れた人たちがたくさんいる。そういう人たちに食らいついていく、やっていることを盗む。自分の一部にしていく。自分にとって無理だと思うような課題を自分に押しつけていく。シリコンバレーの連中はみんなそれをやっている。是非、「牛後につく」ということをみなさんも心がけてほしい。
2015/09/07
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