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過去の講演要旨

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挑戦する者は輝く 挑戦しない者は後退する

挑戦する者は輝く 挑戦しない者は後退する

2019年6月25日朝塾 岡本行夫氏講演

国家を論じるとき


2000万円年金問題、あんなナンセンスな議論はない。いたずらに国民の不安を煽っている。政治家、官僚もどうかしている。実に簡単に分かる問題だ。年金の収入は21万円なのに出費は26万円。5万円足りないから30年間で2000万円の不足という。総務省の家計調査で見ると、高齢者世帯で最も多い支出は食料費で6万8000円。次いで「その他」の5万8000円。その他は、子どもや孫への金品の贈与、お中元、お歳暮など交際費という。この二つが突出して大きい。


昔から「入るを量りて出ずるを制す」という言葉があるように、21万円の収入の人が、子どもや孫に多額の贈与などするわけがない。1500万円まで無税となる「教育資金贈与信託」というのがあるが、そういう支出も含めた平均値の数字で計算上のこと。こんな馬鹿気た話はない。年金21万円世帯の人たちは、その人たちなりの生活をしている。なぜこんな簡単なことを説明しないのか。日本中が2000万円問題に振り回された。どうして国家が生きていくうえで大事なことを議論しないのか。




日本企業のちょう落


日本がいかに復興していったかは、外国の雑誌の表紙を年代ごとに見ていくと分かる。これは、終戦直後の国会議事堂前で畑作りをしている写真だ。それぐらい食料がなかった。それが世界に恐れられる国、ものづくりでは世界ナンバーワンの国になった。肩で風を切っていたが、バブルが崩壊し転げ落ちていく。日本だけ転げ落ちたわけではないが、中国が悠々と日本を抜き去っていった。そして急速な経済・技術構造の変化。一時は再生しかかった日本の経済は結局、立ち直れないままだ。2000万円問題と同じだが、みんなミスを恐れている。ものごとを積極的に前へ進めて行かない。変えようとしない。


最近、平成年間の日本企業の「時価総額」のちょう落ぶりをマスコミも取り上げるようになった。世界時価総額ランキングで、平成元年は、実に32社の日本企業がトップ50に入っていた。それが現在、日本の企業はわずか1社、41位のトヨタだけだ。残念ながら、これがいまの日本の実力だ。為替レートなどの要因はあるが、日本の企業のちょう落は覆うべくもない。


こうした状況の中で注目すべきは、産業構造の変化だ。平成元年の時価総額ランキングで、トップ10のうち7社が日本の企業だった。1位のNTTから5位まで日本企業が占めていた。それがいま1社もなくなった。平成30年のトップ10には、アップル、アマゾン、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、それに中国のアリババもいる。ほとんどがプラットフォーム企業だ。つまり、猛烈な勢いで世界の産業構造が変化している。そこに日本の企業はついていけなかった。




50年先を展望するシンガポール


この間、自民党の構造改革推進本部に呼ばれ30人ぐらいの国会議員に話をした。「いまから50年後の日本」を語ってくれといわれたが、皆さんのやっていることはナンセンスだ。そんなテーマに何の意味があるのかと答えた。50年先を展望するというのは、1969年の我々がいまを予測するようなもの。いまの日本を50年前に予測できたか。高度成長の真っただ中の時に、現在の日本の経済、社会問題などまったく影もなかった。そんな無駄なことに時間を使わず、足元の問題を考えたらどうだと話した。


50年先を展望した議論をやっている国はある。世界に一つだけ、シンガポールだ。あの小さな国で、人々は自分の国が50年後も存続しているか自信が持てない。何が起こるか分からない。50年先をいつも議論している。やるべきことに優先順位をつけている。例えば、英語教育に非常に力を入れている。いまオックスフォード大学に通う学生の国籍をみると、圧倒的に多いのはイギリス人だが、2位はシンガポールだ。それぐらい英語教育に力を入れ、50年先を展望しながらやっている。




外の世界とつながる


では日本はどうか。日本も状況は同じだ。これから一番大事なのは、いかに外の世界とのインターフェイスをつくれるかだ。その根っこには英語の問題がある。シンガポールは、TOEICのスコアがアジア29カ国中で1位。日本はどこか、27位だ。日本の下はタジキスタンとラオスだけ。自民党の議員たちに、せめて北朝鮮よりも日本の学生の英語力を上げてくれと言った。北朝鮮は13位。優秀な学生を集めて受けさせているとかの話ではない。これだけの調査だから一定の母数がなければだめなはず。これがいまの日本の学生の実力だ。日本語の豊かな世界があるといった言い訳は通用しない。学校で教えることをどれだけ理解しているかだ。


アメリカでいろいろな大学に行くが、日本の学生について苦情というか慨嘆をよく聞く。どうしてあんなに成績が悪いのか。自民党の議員たちには、あなたたちの責任ではないかと言った。仲のいい友人に小坂憲次という自民党の国会議員がいて、この話をしたら共感してくれ、彼が文科大臣になったときに教育制度を変え、小学生から英語を勉強するようにした。だが、次に出てきた自民の長老議員が「なにばかなことをやっている」「小学生には国語を教えろ」と全部、ひっくり返して元に戻してしまった。自民党の議員たちに、こんなことで50年先の日本を議論ができるのかと言った。彼らは黙って聴いていたが、我々はそういう残念なとろにいる。




お気楽な日本


日本のいいところもたくさんある。こだわり、まじめ、こつこつとやる、和を尊ぶ。しかし挑戦がない。200年以上続いている長寿企業は世界に5千数百社あるが、そのうち日本は3千数百社と圧倒的に多い。全体の約60パーセントを日本の企業が占めている。それは社会の安定性を示すものではあるが、産業障壁がいかに高いかということでもある。新しくものごとが加わっていかない。


2002年の米誌ニューズウィークの表紙のタイトルは、「Japan takes it easy」(お気楽な日本)。昔の「重戦車」は「アジアのスイス」になりつつある―と。「金持ち」で「カンファタブル」、そして「世界に関係ない国」。こういう捉え方だ。だが日経、ダウ、この株価をみて下さい。世界は明らかに変わってきている。10年間放っておいた定期預金を2、3年前に引き出してみたら、金利はわずか0・5%。それをアメリカの投資信託に替えたら、1年間で8%、160倍になった。この差だ。


我々が当たり前と思って甘受していることも、やはり変わってきている。田中角栄首相はアメリカの大学10校にそれぞれ100億円を寄付した。安倍首相も新たにやろうとしてこの10校に問い合わせたが、どの大学も寄付金を減らしていなかった、運用益を上げたうえに、使うだけ使ってさらに増やしていた。それが経済だ。




挑戦しなければ輝かない


なぜか。それは挑戦をしているからだ。日本企業の設備投資の推移を見てみると、ほとんど減価償却の範囲内でしかやっていない。純投資ゼロだ。これでは経済が発展するわけがない。日本の経営者は、何か当てるよりミスをしないという社会風土の中で出世を考えている。投資をしない。日本経済の最大の問題だと思う。中国は安徽省に100億ドル(約1兆1000億円)をかけて量子応用研究センター(量子情報科学国立研究所)を建設している。日本のあらゆる政府の研究開発予算をかき集めても、こんな額にはならない。それも一つの研究所に集中して投資している。挑戦しなければ輝かない。


挑戦とは何か。アメリカが宇宙開発で最初に打ち上げたアポロ1号は、火災事故で3人が死亡した。チャレンジャーの空中爆発事故では8人が死亡。しかしそれでも開発をやめなかった。日本はどうか。高速増殖原型炉「もんじゅ」は二次冷却水漏出事故で廃炉になり、日本初の原子力船「むつ」は、放射線漏れ事故で開発から撤退した。こわごわとやっていて、ミスが起きるたびに新聞が針小棒大に報じ、安全第一の世論が沸き起こりすべて潰れる。レトリックだけいくら美しく飾っても、前へ進むという具体的な動きがない限り、日本は世界の企業ランキングからさらにずり落ちていくだろう。




失敗してもチャレンジ


世界は、人口爆発、情報爆発の急激な変化が加速している。2年前、パリであった会議でテスラ・ヨーロッパの社長は、ブリュッセルからパリまで自分の車を運転してきたが、こんな楽だったことはないと話した。ただの一回もハンドルに手をかけず、ブレーキに足ものせなかったという。限られた実験区域の中での全自動運転は知っていたが、実際にそれが行われていた。エンジンとハンドル、タイヤの3つがあれば車だが、自動車メーカーが作るのはタイヤだけになるかもしれない。極端な表現だがそれくらいの激変だ。その最先端を走っているのが中国。ともかくチャレンジ精神だ。


アメリカの科学技術を引っ張っている「DARPA」(米国防高等研究計画局)が毎年、「DARPAチャレンジ」というコンテストを開催している。課題を設定して、研究所や大学、企業が参加する。「3Dプリンターで戦車をつくれ」といったかなり思い切った課題を出す。2004年には、初めて全自動運転コンテストをやった。全走行距離は170マイルだったが、完走車はなく7マイルを走ったチームが優勝した。


それが翌年の同じコンテストでは、5チームが170マイルを完走した。1位はスタンフォード大学と企業の連合軍。2位はカーネギーメロン大学と企業。わずか1年で、7マイルから170マイル完走までこぎ着けた。何度失敗しても前に進もうというチャレンジ精神だ。




Ripple Intelligence


いまよく聞くのは「Ripple Intelligence」という言葉だ。例えば「ケース(CASE)革命」がそうだ。Conected(ネット常時接続機能)、Autonomous(自動運転)、Shared(カーシェアリング)、Electric(電気自動車)の4つの頭文字からとった、全自動運転のベースになるキーワードだ。一つのスペクターだけではない。それがみんな一緒になってケース革命が起こって、初めて全自動の車が世の中に走り始めた。極論すれば自動車メーカーはもうタイヤだけ、そういうことになっていく。危機感をもってやっている自動車メーカーももちろんある。フォルクスワーゲンやダイムラーなどだが、残念ながら日本の企業はそういう意識がまだ十分にない。


ケース革命がそうだが、一つのセクターだけではなく、ましてや一つの技術だけではない。いろいろなものがRipple(波)になって、お互いに影響しあってそれが一つの大きな波になるというのが、現在のテクノロジーの世界で起こっていることだ。


世界のCEO150人にオクスフォード大学がアンケート調査をしたところ、自分たちの役目は確実に変わってきている。いままでは株主に寄り添う、株主の利益の実現が自分の役割だと思っていたがそうではない。これだけ激動する世界がどういう方向に行くのか、それを捉えて自分の会社が乗り遅れないようにする。株主の利益は二次的なこと―と75%のCEOが答えた。




国際人の資質、他人への優しさ


これだけは皆さんに言っておきたいが、こういう世界にもう一回チャレンジ、挑戦してほしい。それに一番必要な資質は何か。大学で教えている学生たちはみんないい答えをする。「多様性を受け入れる」「英語力」「コミュニケーション能力」。すべて間違っていない。だが長いこと国際社会で仕事をしてきて思うのは、「他人への優しさ」だ。意外に思うかもしれないが、これが一番欠けている。我々はとても優しい民族だが、全般的にみて他人への優しさが隠れてしまっている。自分の家族や仲間内、コミュニティーなどではみんな助け合う。ところが自分のコミュニティーの外ではどうだろう。優しさや思いやりをリーチアウトしているだろうか。


我々はシャイなところがあって、日本人はそういうことが不得手だ。市民講座などで参加者によく聞くのは、この一カ月で見知らぬ人に何か親切なことをしてあげたか。あるいは、見知らぬ人から親切を受けたことがあるか―だ。例えば女性なら、網棚にある重たい荷物を降ろそうとしたとき、そばにいた男性が「手伝いましょうか」と声を掛けてくれるだろうか。空港で若者が駆け寄って年配者の荷物を取ってくれるだろうか。横断歩道を渡ろうとしている盲人の手助けを、みんながするだろうか。そいう光景はほとんど見ない。


ワシントンで車にはねられ、長いこと松葉づえ生活をしたことがあった。その時の人々の親切さは、もう一回足を折りたいと思うぐらいだった。なぜ他人への思いやりが国際人になるための第一の資質なのか。外へリーチアウトする(援助の手を差し出す)ことが大事だからだ。つまりプロアクト(自ら進んで行動)するということだ。




求められるプロアクティブ型


人間には「リアクト型」と「プロアクト型」の二通りある。リアクト型は、周りの状況の変化に対応するタイプだ。こういう人たちは多い。プロアクト型は、自分が動けば環境も変わると考え行動する。職場では、リアクト型は上からの指示を待っているが、プロアクト型は、自分で新しい仕事を探してやっていく。指示待ちのリアクト型は暇があるから、職場が終わると、飲みながらほかのできるやつの悪口を言って憂さを晴らす。プロアクト型はそんな暇はないので、人の悪口は基本的に言わない。自分で前に進んでいく。つまり腕を広げて、世界を受け入れるということだ。そこだと思う。この点で飛び抜けているのが、やはりアメリカ人だろう。

ぼくが自分の仕事で一番、時間をかけているのは「岡本アソシエイツ」という事務所の運営だ。10数社の企業会員のところを回って、いまの産業社会で何が起こっているかをブリーフする。「クラウドソーシング」の時代だが、CL―のクラウドではなくて、CR―の方のクラウドソーシングの時代だと思う。つまり、独自のスキルを持った「マス」の不特定多数の人たち(クラウド)に仕事を委託する、フレキシブルな形の労働市場で成果を得ていく新しい考え方だ。


トヨタ自動車の豊田章男さんが、終身雇用はもはや無理な時代になってきたと発言して反響を呼んだ。雇用の形態は急速に変わってきている。雇用主、発注者、あるいはオーガナイザーが信頼感を持って仕事を託すような、「アサイナブル」な人間が必要な時代ということだ。求められているのはリーチアウト、プロアクト型人間であり、他人に対し思いやりのある人ということだ。


2003年にイラクで起きた襲撃事件で殺害された外交官の奥克彦は、ぼくの知る限り最もプロアクティブな人間の一人だった。見知らぬ他人への思いやりは傑出していた。彼のような人材が役所の中に10人いれば日本は確実に変わっただろう。




力を尽くしチャレンジ


最後にこの王之渙(おう・しかん)の「登鸛鵲楼」(カンシャクロウに登る)という漢詩の絶句を贈りたい。

白日依山尽

黄河入海流

欲窮千里目

更上一層楼

白日(はくじつ)山(やま)に依(よ)りて尽(つ)き

黄河(こうが)海(うみ)に入(い)りて流(なが)る

千里(せんり)の目(め)を窮(きは)めんと欲(ほっ)して

更(さら)に上(のぼ)る一層(いっそう)の楼(ろう)


鸛鵲楼は高い所にあるが、ちょっと上がったぐらいでは景色はそれほど変わらない。景色は変わらないことは知っているが、しかしそれでももっと先を眺めてみたい。だからもう一段、上がるのだ。


自分ができる限り力を尽くすというこのチャレンジ精神。この言葉を最後にして終わりたい。

2019/07/01

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